香り豊かなそのぎ茶と毎朝ふかしたての特製まんじゅうが楽しめる。そんなステキなところが近所にあったら、毎日通っちゃうだろうな……そんな夢のようなお茶屋さんが東彼杵町三根郷にあります。
東そのぎインターから嬉野方面へ道なりに進んでいくと見えてくる、白い外壁がおしゃれなお店『お茶のこばやし』。2代目当主の小林幸男さんと明子さんご夫婦が営んでいます。
店舗では丁寧に製茶された高品質なお茶と毎朝できたてのおまんじゅうを提供するほか、道の駅やオンラインショップでもお茶を販売。また、関東を中心に百貨店などの物産展にも出店しており『お茶のこばやし』の味を求めてイベント開催の度に訪れる根強いリピーターさんもいるほど評判となっています。
創業は1966年。東彼杵町中尾郷にある長崎県農林技術開発センター茶業研究室で指導員をしていた祖父・末馬さんの影響を受け、父・濱雄さんが『長崎緑茶販売有限会社』を設立、製茶業を営むこととなりました。
幸男さん「父は南島原市の生まれで、船の乗組員をしていたんです。ですが祖父のやっている仕事を見ているうちにお茶の仕事を目指すようになって。初めは別の町のお茶屋さんで修業をしていましたが、祖父から『東彼杵でやってみないか』と言われ、今の場所で会社を興すことにしたようです」
末馬さんは幸男さんの親世代のお茶農家さんを指導しており、荒茶(製品として販売する前段階まで加工されたお茶)に仕上げる腕前を認められ、全国茶品評会の個人部門(当時)で入賞するほどの人でした。
濱雄さんも茶葉のブレンダーとして一流の腕を持ち、味や香りからお茶の産地を当てる『闘茶会』では九州1位を獲得したそう。また、農家さんが仕上げの相談にと持ち込んだ茶葉を一目見ただけで、蒸し方の過不足をすぐに判別できるほど荒茶に関する研究にも熱を注いでいました。
幸男さんが2代目として会社を継いだのは2016年のこと。このタイミングでわかりやすいように、たくさんの人に親しみを持ってもらえるようにと『お茶のこばやし』という屋号を付け、店舗を新しく建て替えました。
さらに幸男さんは経営改革を実行。これまで50年にわたり濱雄さんが続けてきた卸業務を辞め、小売に専念すると決めたのです。長年取引をしていた業者さんをリセットし、自らの販路を切り拓くことにしました。
「卸先によって値段が違ったり、値段に合わせるために色んな階級の茶葉を混ぜるので同じお茶のはずなのにAの袋とBの袋で味が違う可能性が出てくることもあって、そういうことは一切断ろうと。自分の会社の名前を名乗る以上は全国どこで買っても同じお茶を提供したいので、お客様と相対できる小売に専念することに決めました」
仕入れ先も全てリセットし、幸男さん自らの足で新しい関係を築くべく品評会で日本一を獲得し活躍している同世代のお茶農家など、一軒一軒へ直接出向いては取引を行っています。新茶の時期には農家さんから「お茶が出来たけど見に来る?」と連絡があればすぐに工場へ向かい、そのまま交渉を行うこともあるそう。
幸男さんの代に変わり数年。今も農家さんやお客様との新たな関係性を築いていくべく、自らの足で自らの道を拓いています。
時は30年ほど前にさかのぼり、末馬さんが亡くなってしばらく経った頃のことです。ある日濱雄さんの夢に末馬さんが現れ「嬉野まで登っていく道沿いに甘味を売っているところがないから、まんじゅう屋をやりなさい」と語りかけてきたそう。
夢のお告げに驚きましたが、よくよく考えてみるとお菓子を売っているお店が無いことに気付き「言われた通りまんじゅう販売もやってみよう」と始めることとなりました。
まんじゅう作りの担当は幸男さんの母・伸子さんです。当初は作り方が分からず戸惑いましたが、製菓店に材料を卸している業者さんからレシピを教わり、だんだんとオリジナルの形になっていきました。販売しているまんじゅうは酒まんじゅうとお茶まんじゅうの2種類。毎朝蒸したてのまんじゅうがお店に並びます。
「製茶をやっていることもあって、茶葉を粉末にする機械があるんです。『せっかくだからお茶の粉末を練り込んでみよう』という父のアイデアから試行錯誤して出来上がったのがお茶まんじゅうなんですよ」
まんじゅうは年中売られていますが、特にお盆はお土産やお供え用にと早朝から買い求めるお客さんが多いとか。この時期は朝の3時から伸子さんと幸男さん夫婦の3人で作っており、1日に2000個を売り上げるほどの人気だそうです。
シンプルで美しい外観もさることながら、一歩お店の中へ入ると調度品や生けられたお花などかなり洗練された空間が広がります。店内のインテリアは明子さんが担当されており、様々なお店へ出向いては参考にされているとか。心遣いが行き届いたこだわりが感じられます。
店内ではお茶はもちろんのこと、駄菓子の販売も行っています。お店の周りには子供が多く住んでいるため、お店に来れば気軽に駄菓子を買える環境を作りたいという配慮からコーナーを設けたとか。
またお茶のパッケージの一部や贈り物を包む包装紙は、福岡の印刷会社に勤める幸男さんの甥っこさんが手がけているそう。思わず心がときめくデザインばかりなので、ぜひ手に取ってその素敵さを感じてみてください(ちなみに、甥っ子さんはオンラインショップも手がけていらっしゃるので、そちらもぜひチェックを)。
そして特製のお茶は100グラムあたり500円とかなりリーズナブルな価格で販売されています。この価格帯に設定したのには、ある思いがありました。
「『安いのにすごく美味しい!』と喜んでもらえるお茶をメイン商品で出していまして。生活の一部として普段使いするようなお茶をどんどん飲んでいただきたくて、うちでは手ごろな値段で飲める品質の良いお茶をおすすめしています」
2020年から蔓延している新型コロナの影響はお茶のこばやしにも。イベント参加の機会が減ったうえ、店舗へ訪れるお客様の数もだんだんと少なくなっています。ですが最近では「東彼杵まで行けないから」というお客様からの電話注文が度々入るようになったとか。
また、2022年2月からは東京にある某百貨店のオンラインショップで開催されるウェブ上の物産展『長崎展』への出店が決まっている他、関東に和菓子店をオープンする知り合いの方へお茶を提供したりなど少しでも未来につながるように、と積極的に動いてきました。
「コロナの波が落ち着いてまた動けるようになれば、東彼杵で仕事をしつつ、お茶がよく売れる関東方面へ伺うスタイルに戻せたら良いのですが、全国的にお茶屋さんがたくさんあるので、オンラインでもなかなか集客が難しいと感じることもあって。今の状況を思うと店舗や道の駅にお客様をいかに誘導するかが頑張りどころではありますね」
2021年の年末には、これまでよりもさらにゆったりと過ごせるよう店内を模様替えしたそう。お茶はもちろんのこと、洗練された空間をじっくり吟味できます。
町のおしゃれなお茶屋さん『お茶のこばやし』へ、ほっと憩いに来ませんか。香りふくよかなそのぎ茶と作りたてフワフワのおまんじゅうが、あなたを待っています。
長崎県東彼杵郡東彼杵町三根郷1370-3
0957-46-0541
月曜~土曜 9:00~18:00/休業日:日曜・祝日
※変更になる場合がございます。くわしくはお問い合わせください。
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