「人が交われる場所の活性化というか、交流がもっとできるような場所にしたい。そこで、いろんな人が繋がってくれれば嬉しいです。ただ来て終わるのではなく、次に繋げられるようなリアルな体験をしに、この地に来て欲しい」。そう語る齊藤仁さん、晶子さん夫妻が営むのが、2019年8月1日にオープンした『さいとう宿場』だ。東京から移住してきた2人を快く迎え入れてくれた東彼杵町を、多くの人に知ってもらうべく、今日も宿場にて人と人とを繋いでいく。
2016年に東京から東彼杵町へと移住してきた齊藤夫妻。縁もゆかりもない地を訪れ、実際に暮らし、宿場を開くことができたのは、行動力と、そこから発生した縁と巡り会えたことが大きいと言う。
仁「ぐるぐると各地を回っている時に、東京有楽町にある故郷回帰センターの人から『協力隊の仕事もあるから、東彼杵町に出してみれば』と言われました。そこで、協力隊の要項を確認したところ、空き家のリノベーションや空き家バンクに関わる仕事だったので、自分が前職でやっていた仕事にマッチしており、これなら行けると背中を押されました。そういうのが全部上手いこと重なったんです。移住してまずやることと言えば、兎にも角にも仕事ですから。それは、たまたま私の運が良かったのです。狙ったわけでも何でもなく、縁が繋がった」
東彼杵町に来て、『さいとう宿場』を開く構想はすでにあったのだろうか。
仁「協力隊として働き始めた時から良い場所を見つけていて、その時から宿場を持つという構想が芽生えました。それが現在のさいとう宿場となる元『恵比須屋御旅館』のあった場所なのですが、当時そこには家主がいたので、もし借りられたらやりたいねとは夫婦で言っていました」
立候補地は、借りられるかどうかもわからない状況。それでも、借りたいという夫婦の想いが、後に実を結ぶこととなる。
仁「しばらくして、その土地が空き家となって借りられることになりました。ただし、ゴミ出しから全部私たちがやるという条件。空き家と言っても、布団とか家具が全部そのまま残ってある状態だったので、それを全て片付けるところから始まりました。そして、家屋は雨漏りもあり、シロアリもあり。そういうのを全てこちらで修繕・改修して。全部出来上がるまで1年以上かかりました」
夫婦の念願叶って完成したさいとう宿場がオープンしたのは、2019年8月1日。以来、2年半以上の年月に渡って夫妻で宿を切り盛りし、人を繋げてきた。都市部だとなかなか経験できない繋がりがここにはあるという。
晶子「東彼杵町にきて6年以上経ったたけど、全然飽きないです。人や自然、全て含めても飽きない。新しい人もぼちぼち増えてきています。例えば、プライベートスクールが新しくできたことで、その学校目当てに移住してくる人がいたり。たまに、移住に興味がある人とか宿場を訪れてくれます」
齊藤夫妻が抱く東彼杵町のイメージを、それぞれに一言で言ってもらうと、
仁「お茶とくじらの町。くじらは、よくは食べないけど(笑)」
晶子「自然豊かな、便利な田舎」
そんな東彼杵町にある、さいとう宿場へ実際に来てくれたゲストには、移住についてや東彼杵町についてを語り、紹介する。記者も質問をぶつけてみた。東彼杵町で、1年の中でどのシーズンがお勧めなのか。
晶子「春ですね。運営1年経たずにコロナ禍の社会情勢が続き、まだまだ実績不足は否めませんが(笑)。自分たちが好きな季節だと、5月。それか、秋なんですが、こっちには紅葉樹が少ないのでお茶のシーズンがお勧めです。周遊してもらって、眼前に広がる茶畑や海の景色を見てもらうのが良いかと。あとは、食事。地元食材が美味しいので、この辺のお店に行ってもらい、いろんな方と話をしながら地元の食を楽しんでもらう。そして、できればいろいろなお店や作り手に会うまで踏み込んでもらえればと思います。例えば、この宿場でそのぎ茶を飲んでもらって、近くのSorriso risoに買いに行くとか、さらに実際作っている人を紹介して、繋いでいく。それが、私たちの役目だと思っています」
さいとう宿場は、3部屋からなるゲストハウス・スタイルの宿。古民家を改装しているため、ホテルや旅館のような設備、完全な個室空間があるわけではない。これも、人と人との出会いを重んじたアットホームな空間を目指した。旅好き、人好きは是非足を運んでもらいたい。
宿泊者以外の方も利用できるCafe/Barラウンジ。ここでは、地元の旬の食材を使った女将の晶子さんお手製の和朝食や長崎名物皿うどん、宴会料理などを振る舞ってもらえる(全て事前予約)。この場に、さまざまな業種の人が集う。地元民との交流や一期一会の出会いを楽しんでもらいたい。「親戚の家に泊まるような気分で寛ぎ、東彼杵の暮らしにふれてください」。
時は、2022年。まだまだ、コロナ禍が収束する状況が見通せない中でも、あらゆる業界が踏ん張り、新しい視点で価値を生み、社会を発展させている。さいとう宿場もそうだ。今後の宿の目標を聞いてみた。
晶子「こんなご時世ですが、できるだけ人と人とが交わり、活性化をしていける場所でありたい。人と繋がる場所を提供して、いろんな繋がりの中で、今後一緒に仕事をすることになったり、町に興味を持って移住するとか。ただ 来て終わるのではなくて、”次に繋がる”ようなことができる場にもっとしていきたいです」
仁「県外の人に東彼杵という町の存在を知られていない。なので、とりあえず来てもらって、なるべく多くの人に発信してもらえるような環境づくりをしていきたいと思います。東彼杵町のことを全然わかっていないので。『どこにあるの』って(笑)」
晶子「宿を訪れる人の中には、ハウステンボスに行くために、Google mapを広げて調べていたら、たまたまこの辺りにゲストハウスを見つけて来たとか。ちょうど海が近くて来てみた方もいます。そうではなく、東彼杵の町を訪れたいと思って宿に来てくれる人が増えるように協力していきたい。例えば、隣町の波佐見町は、波佐見焼きが欲しい、見たいから泊まりに行きます。人は、写真や映像、雑誌の記事やテレビなどを通して見たものが記憶に残り、そこに行きたいと思うのではないかと。なので、宿に泊まって千綿駅の風景を見るといったリアルな体験をしてもらいたいですね」
東彼杵町に来て、リアルな体験を。その思いで、齊藤夫妻が発起人となって2022年4月より新たにスタートした取り組みがある。それが、東彼杵”観光”特化型WEBサイト『くじらの旅チャンネル』だ。
詳しくは、近々公開予定の「もの」記事をご覧いただきたいが、このトップページを見るだけで、すでに東彼杵町が脳内にガツンと記憶されること間違いなしだ。
大村湾を一望できる、日本屈指の無人駅『千綿』。夜に付近を歩けば、さながら銀河鉄道の夜が脳裏に浮かんでくる。そんなロマンチックなスポットまで、歩いて1分で行ける場所にあるのがさいとう宿場だ。そして、宿場からの眺めも、これまた別格。そんな場所で、人が集い、出会い、新たな町おこしの種を蒔く。そういう一期一会の体験を、ここでしか味わえない体験を、ぜひ体験してみてほしい。