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門外不出のレシピと愛されるキャラクターで人を惹きつける。東彼杵町の『うどん・そば・ぼた餅』処『さかえ亭』

佐世保〜川棚〜東彼杵町を繋ぐ主要道路、国道205号。東彼杵町の本通り沿いにある小さなモールに食事処『さかえ亭』はある。前情報を下調べすると、「出汁が最高」とか、「ぼた餅が、本当に美味しい」とか、「女将さんの人柄が素敵」とか。好印象の意見が溢れ、その分人々から愛されている食事処だということがわかる。

さて、そんなさかえ亭を切り盛りするのは、”ちーこおばちゃん”の愛称で親しまれる店主の石井千恵子さん。それまでは佐世保の各地で食事を提供し、磨いてきたその腕一本で、東彼杵町で店を始めた。

14年愛され続けるさかえ亭。
主力は『うどん・そば』と『ぼた餅』

以前は、佐世保市に暮らし、食事処を運営していた石井さん。ある時、縁あって三島眼科医院から、自身の持つテナントで新しく店を始めてみないかという打診があった。

石井「私は、これまでに広島県の院内レストラン、佐世保市の警察署内食堂、高校付近でのカレー屋と飲食店経験を積んできました。そのまま、佐世保市でお店を続けるという選択肢もあったのですが、せっかくいただいたご縁は大切にすべきだと考えました。そうして、新天地となる東彼杵町でさかえ亭をスタートさせたのです」

内装から手がけ、そこから現在に至るまで、店を切り盛りしてきた。開店当時からメニューはほとんど変えていないという。

「ほとんどが開店当時のままです。でも、お客さんからの要望で新しくメニュー化した商品もあります。うどんやそばの冷たいの、温かいの。そのどっちも食べたい方向けのセット」

「そして、にゅうめん。うどんやそばが食べられないという高齢者たちからの要望で、急遽にゅうめんを出したのが始まりです。今では、そのリピーターも増えました」

うどんやそばがダメなら、にゅうめんならどうよ? と機転を効かし、さらにメニュー化までしてしまうのが、ちーこおばちゃん(あえて、言わせてもらおう)の人柄だと言っていい。

記者は、深く頷きつつ、隣りに貼られたメニュー写真を見て……思わず、もう一度見た。いったい全体、なんだっていうのさ、このメニューは!? 

「言ったでしょ? うどんとそば、温かいの両方食べたいっていうお客さんの声があったって。だから、このメニューを作ったの」

この発想は、記者にはなかった。だが、確かにうどんとそばを両方楽しめるお得なセットと言えるだろう。要望にも、きっちり答えてくれるちーこおばちゃん、最高過ぎます!

また、うどん・蕎麦の主食だけでなく、甘味の『ぼた餅』の予約も多く、人気メニューのひとつになっている。食事処において、ぼた餅を出すというのも珍しいし、人気を博すまでになるという店を初めて知った。

「広島に住んでいた時に、近所の人にプレゼントしたことがあって。そしたら、すごい喜んでくれて、毎年お彼岸とお盆の時に作ってくれるのを待たれるようになった(笑)。ある時、バザーに出してもらえないかと頼まれ、出してみたら問い合わせが来たと言われました。そこで、私のぼた餅って美味しいのかなと(笑)。それから、ずっと作り続けています」

さかえ亭で出されているぼた餅は、現在3種類。あんこ、きな粉、そしてそのぎ茶を使ったものだ。あんこを一口いただく。控えめな甘さで、重たくなく、さっぱりして食べやすい。漉しあん過ぎず、粒あん過ぎず。ちょうど良い塩梅のぼた餅だ。確かに、食べ始めるとついつい箸が止まらなくなるほどに、美味しい。

きな粉、そのぎ茶も同様に食べてみるが、それぞれに個性があって、どれもが甲乙つけ難く美味しい。これは、3種ともコンプリートしたくなってくる。

「一度、ぼた餅を買いに来た人がいました。その時ほぼ売り切れでその方は買えなかったんです。なので、残っていたぼた餅を2個包んでプレゼントしたら、それを食べてハマってくれて。そこから、懇意に買いに来てくれるようになりました。そういうことがあるから、お店は楽しくてやめられませんね(笑)」

味の決めては『出汁』にあり。
門外不出のスープレシピ

これまで、各地で食事を提供してきた石井さん。得意料理は何だろうか。

「2人の娘が言うには『茶碗蒸し』です。こちらに帰省すると、必ず茶碗蒸しを食べたいと言うんです。お寿司屋さんなどが出すようなものを真似るのではなく、すべて自己流で作るのですが、『お母さんの茶碗蒸しは、どこの店で食べるのよりも美味しい』と言ってくれます」

聞くと、イメージできるものとは全然異なり、湯掻いたじゃがいもやにんじん、春雨などが入った、それ一杯でお腹が満たされるような茶碗蒸しらしい。そして、出汁にもこだわりがあるのだとか。しかし、残念ながらその茶碗蒸しをお店で出すことはないと言う。「作業に時間がかかるので(笑)」。うーん、茶碗蒸し好きな記者にとってはぜひとも食べてみたかった。

話を聞いていると、お腹が減ってきた。お昼のセットを頼み、実際にうどんをいただいた。気になる出汁を飲んでみる。優しい塩加減で、ごくごく飲める。確かに、他のお店とは明らかに異なる、さかえ亭としての美味しさを感じた。レシピを知りたくなる気持ちも頷ける。

聞けば、最後のひとしおは、その日の気温や、その時の自分の感覚で調整したりもしているそうな。この味を、14年間出し続けられることが素晴らしい。もちろん、秘伝のレシピがあるのだろうと尋ねると、独自でこの味を生み出し、さらにちーこおばちゃん以外にこのレシピを知る者はいない。レシピノートも、出汁に関しては残していないという。

門外不出の、秘伝の味。ちーこおばちゃんにしか、出せない味。だからこそ、人はあの人が作る料理をまた食べたいと思うのだろうし、あの人にまた会いに行きたいと思うのだろう。

お店に来てくれる人を大切に。
体力の続く限り、店を開いていたい

これまで順調にお店の経営をやってきたが、ここ数年はコロナウイルスが猛威をふるい、苦しい状況も増えた。それは、どの業界でもそうだが、それでも仕事に対して元気にやっている人は気持ちが良いと石井さんは語る。

「コロナに対して、売り上げが落ちた時は落ち込みますよ。目に見えての激減でした。でも、そんな中でも元気をくれる人がいる。そういう人の気持ちの良さに、私も元気をもらいます」

コロナ禍の情勢になって、気づくこともあった。苦しむ人、逆に楽をする人。不平等なことは多いと感じたという。木を見て森を見ずという言葉もあるが、逆に森だけを表面的に見るのではなく、そこにある木ひとつひとつが違うものと見る目も欲しい。

「でも、お客さんはゼロじゃないから。それで、懇意にしてくれているリピーターに救われます。差し入れを持ってきてくれる人もいて。なので、落ち込むこともあれど、助けられながら楽しくやってます」

お店の味が好きで、お店の人が好きで、お店で過ごす時間が好きだから、リピートする。お店を移転しても会いにくるリピーターたちは、きっとその人の魅力に来るのだ。今後のさかえ亭が、益々栄えるために、どう続けていくのか。

「体力のあるうちは続けるし、お客さんが一人でもきてくれるのであれば、その人のために続けたい。ぼた餅をネットで売ってくださいという注文があるんだけど、私はお客さんの顔を見て売りたいんです。広島の友人には毎年必ず送るようにはしていますが、その他の問い合わせに関しては、直接でないと売りたくない。目の届く範囲で、食べて楽しんでもらいたいです」

さかえ亭

長崎県東彼杵郡東彼杵町蔵本郷1716

0957-47-0481

9:00〜19:00/木曜日

※変更になる場合がございます。くわしくはお問い合わせください。